事例1:東芝不正会計の本質
今回はかつて世の中を大きく騒がせた東芝不正事件(巨額の粉飾・不正会計)を改めて考察してみたいと思います。この事件については第3者委員会の報告書が公表され、概要が明らかにされました。本稿ではこの報告書及びその他の公表された情報をもとに、本質的な問題点を考えてみたいと思います。
私見として、以下の3点が本質的な問題点であると考えます。
まず1点目は、トップの直接(暗黙)の指示が、たとえ不適切な指示であったとしても上意下達が徹底されて末端にまで行きわたり、悪い意味で極めて統制が効いている、という点です。監査法人対策も含め、会計の原始データやエビデンスまで一糸乱れず操作することは極めて困難な作業です。ほんの一部の幹部の行為というものではなく、複数の事業部にわたり、そして経理・財務部までもが関与していたという実態は驚きです。こういった企業風土、組織文化の根底にあるものは何か、という点が本質的な問題です。これを解き明かすことが、不正対策の最大のポイントでしょう。
2点目は、積極的に最新のガバナンス(委員会設置会社)を採用し、上場企業として高いレベルの内部統制がありながら、それらを無効にする術(すべ)をどうやって組織は身に着けたのか、という点です。単にそれぞれの統制機能が機能していなかったというだけではなく、機能しないようにする仕組みをどう構築したのか、という点が非常に重要なポイントです。
3点目は、これだけ広範囲に関与者がいながら、長年にわたり全く内部通報されなかったのはなぜか、という点です。また、会社の内部通報窓口ではなく外部の公的機関が通報先となった理由は何か、という点も極めて大きなポイントです。
この3点を解明することにより、問題の本質が見えてきます。我が国を代表する大企業であり、おそらく他の企業にも同じような問題が潜在している可能性があります。「自身の会社は大丈夫か」と、改めて見直すきっかけになるのではないでしょうか。
さてここからは、独自の視点から経営者と従業員に焦点を当てて上記3点の問題点を検証したいと思います。
結論から言うと上記の問題点が発生した原因、すなわち経営者及び従業員が不正会計に手を染める原因は、粉飾の不正トラップ(不正トラップの詳細は不正防止策の重点2を参照)に陥ってしまったことにあると考えます。
粉飾の不正トラップとは次の3つの状況を指します。
(粉飾の不正トラップ)
粉飾が起こる3つの状況 | 経営者 | 従業員 |
①不正会計(粉飾)を行える機会を熟知している | ガバナンスや内部統制を無効にして無視できる術(すべ)を熟知している。 | 利益操作を可能にする会計の仕組みと、発覚しても言い逃れできる術(すべ)を熟知している。 |
②信頼(期待)を丸投げされている状態 | 長年、経営者に対する社内の信頼が圧倒的で、経営者には決して逆らえないという風土があり、実質的な権限が集中している。社内の誰からもチェックされない状況にある。 | 経営者や上司から信頼されているという自信があり、その信頼には何としてでも応えなければならないと考えている。 |
③自分の行為を正当化できる | あくまでも会社を守るためであり、自分の懐を増やすわけではないと言い訳して、良心の呵責を乗り越える。 | 万一、不正が発覚しても、「会社の方針に従っただけ」とか「会社を守るためにはやむを得ない」などと考えて良心の呵責を乗り越える。 |
東芝の経営者と従業員はこの3つの状況に陥っていた可能性があります。
この状況に陥ると、経営者は粉飾(不正会計)の誘惑に駆られ、従業員はその意向をくんで行動してしまい全社的な粉飾に発展する可能性があります。
どんなに立派な経営者であっても、上記の3つの状況が揃うと、粉飾の誘惑に駆られ、不正の罠に陥る危険性があります。
この誘惑を断ち切るための仕組みこそ、本当に必要な不正会計(粉飾)の防止策となります。
あなたの会社は、経営者と従業員が粉飾の不正トラップに陥ってしまう状況を放置していませんか?
(なお、本稿に記載した内容はあくまでも私見であり、一般的な見解と異なる可能性があることをご了承ください)